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スターゲートUAE:中東から始まる「テクノ・ナショナリズム」新時代――AI覇権を巡るグローバルパワーシフトの最前線

  • 執筆者の写真: social4634
    social4634
  • 5月25日
  • 読了時間: 6分

■ はじめに

2026年の稼働を目指し、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで計画が進む「スターゲートUAE」プロジェクト。OpenAI、G42、Oracle、Nvidia、Cisco、SoftBankといったビッグネームが一堂に会し、1ギガワット(GW)規模のAIデータセンターを建設する構想だ。将来的には5GWもの膨大な電力を要する「UAE-U.S. AI Campus」への拡張も見据えており、世界最大級のAI処理拠点になる可能性が高い。本稿では、なぜこれほど巨大なデータセンターが必要なのか、主要企業や各国の思惑、そして米国・中東・中国のAIパワーバランスにどのような影響が及ぶのかを探る。環境負荷や安全保障リスクという深刻な課題も含め、ビジネスエグゼクティブ必読の内容を網羅したい。


1.「スターゲートUAE」プロジェクトの全貌

◆ 1GWから5GWへ拡張するAIキャンパス

最初の1GWデータセンター(=スターゲートUAE)が2026年末までに200MW相当で部分稼働し、最終的には5GW規模の「UAE-U.S. AI Campus」へ発展する野心的な計画だ。主要プレイヤーは以下のとおり。


G42:UAE国家安全保障顧問が会長を務めるAI企業。建設費を負担し、巨大インフラを提供。


OpenAI:ChatGPTの開発企業。「米国外初」の大規模展開で、民主主義的価値観に基づいたAIを世界に広げる「OpenAI for Countries」イニシアチブの第一弾。


Oracle:OpenAIとともにデータセンター運営を担い、企業クラウド事業とのシナジーを狙う。


Nvidia:最新のGrace Blackwell GB300シリーズを大量供給。AIチップ分野での覇権をさらに強固に。


Cisco:ネットワークやゼロトラストセキュリティを提供。高性能かつ安全な通信基盤を構築。


SoftBank:グローバル投資家として債務調達を通じ、UAEと米国のStargateプロジェクトを支援。


◆ 「OpenAI for Countries」の先駆け

このプロジェクトは、OpenAIが打ち出した国家規模のAI構築支援策「OpenAI for Countries」の最初の事例とも言われる。米政府と連携し、信頼できるパートナーに対して民主主義的価値観に基づくAIインフラを整備するのが狙いだ。強化版ChatGPTの国内無料提供を通じ、UAEは自国民のAIリテラシー向上と産業変革を同時に推し進める。


2.なぜ巨大なデータセンターが必要か

◆ コンピュートの“取り合い”:大規模言語モデルの爆発的需要

ChatGPTなど「生成AI」ブームに伴い、クラウド事業者やAI企業がこぞって高性能GPUを確保しようと競争を激化させている。大規模言語モデルの学習や推論には莫大な演算リソースが必要で、データセンターの巨大化は不可避だ。スターゲートUAEの1GW~5GW規模は“前例のない高み”を象徴している。


◆ 地理的優位と新興市場へのゲートウェイ

アブダビの地理はアフリカや南アジア市場と近接しており、米欧に偏在するデータセンターではカバーしきれないユーザー層を取り込みやすい。通信遅延を抑え、地域ユーザーに高速かつ大容量のAIサービスを提供できる「ハブ」として期待される。


3.各社・各国の思惑:ビジネスと地政学が交錯

◆ G42とUAE:ポスト石油経済をAIで切り拓く

G42の背後には、UAE国家安全保障顧問でもあるシェイク・タハヌーン殿下の影響力がある。1.4兆ドルもの対米投資約束や、中国技術からの戦略的撤退など、大規模な“外交努力”によって米国との信頼関係を構築し、最先端AIチップ輸出規制を緩和させた。国家AI戦略を掲げるUAEにとって、スターゲートUAEは「石油依存からAI主導型経済」への変革を支えるインフラの要となる。


◆ OpenAI:世界規模の展開と独自エコシステム構築

OpenAIはすでにテキサス州での大規模データセンター拡張や、Jony Ive氏のスタートアップ買収など、ソフトウェアからハードウェア、物理空間まで手を広げている。そこへ今回、初の米国外展開としてスターゲートUAEが加わる。これにより、生成AIにおける国際的リーダーシップをさらに強固なものにし、他国への「OpenAI for Countries」導入のモデルケースを築く狙いがある。


◆ 米国政府:トランプ前政権による輸出規制転換

UAEが年間最大50万個の最先端AIチップを輸入できるようになった背景には、バイデン前政権の制限を覆す形でトランプ前政権が進めた外交交渉があったという。ここには中国への技術流出を防ぎながら、信頼できるパートナー国と手を組み、AI覇権を維持したいという米国の思惑が垣間見える。


◆ 中国:中東市場から遠ざけられるリスク

かつてUAEはファーウェイをはじめとする中国技術を積極導入していたが、近年はG42が中国企業からの投資撤退を進め、米国との協調を優先している。UAEが米中AI競争において“米国側”へ傾斜することで、中国は中東での技術プラットフォーム拡大における大きな足がかりを失う恐れがある。


4.環境負荷とリスク:桁外れの電力消費をどう捉えるか

◆ 1GW~5GWがもたらす巨大なエネルギー消費

1GWのデータセンターは原子力発電所数基に匹敵する電力を消費し、UAEが想定する5GW規模まで拡張すれば中規模の国の消費量を上回る。砂漠地帯での冷却に伴う水資源問題も深刻だ。運営者は原子力や太陽光、天然ガスのハイブリッド電源で対応する方針だが、CO₂排出や長期的な持続可能性には大きな課題が残る。


◆ データガバナンス・安全保障リスクも

スターゲートUAEは米国政府の監督下で動く「米国-UAE AI加速パートナーシップ」の枠組みに組み込まれており、中国への技術漏洩や権威主義的な監視利用への懸念を払拭するため、厳格な安全保障措置が採られるとされる。しかし、G42の過去の中国技術導入や監視システム事業の歴史を踏まえると、リスク管理は容易ではない。さらに、大量に扱われるデータの主権・プライバシー問題も国際的な注目を集めるだろう。


5.MGXファンド:UAEの資金外交の核心

UAEはMGXファンドを通じて米国のStargateインフラやOpenAI自体に投資しており、AIインフラ整備と政治的影響力確保の「両面作戦」を展開中。MGXはトランプ家が関与する暗号資産事業などにも出資したと報じられ、交渉の裏で巨額の資金が動いている。スターゲートUAEはこうした「資本×技術×外交」の結節点として成立した象徴的なプロジェクトと言える。


6.今後の展望:21世紀AI覇権の分水嶺

スターゲートUAEは、以下のポイントでグローバル・パワーバランスを変える可能性がある。


中東のAIハブ化:UAEが石油に代わる新たな国家ブランドとしてAIを掲げ、アフリカ・インドを巻き込む“第三極”への跳躍。


米国のAI同盟戦略:トランプ前政権の輸出規制撤廃を踏まえ、米国は信頼できる国への最先端技術供与で中国を封じ込めるシナリオを構想。


OpenAIのグローバル展開:国際的に分散した大規模データセンターを確保し、「OpenAI for Countries」を推進。自社モデルと倫理規範を世界標準に据える狙い。


環境持続可能性への挑戦:5GW規模のAIインフラが地球環境に与えるインパクトは計り知れない。クリーンエネルギーと先端冷却技術がどこまで機能するか注目される。


結び

「スターゲートUAE」は、AI技術が国家の安全保障や経済成長を左右する時代の到来を象徴するプロジェクトだ。UAEはソブリン・ファンドと外交交渉を武器に、米国との“取引”を成立させることで最先端AIチップを手に入れた。一方、OpenAIは本格的な国際展開をスタートさせ、「ポスト石油」へ走る湾岸国家の巨大資金と政治力を取り込みつつ、グローバル規模の覇権を固める布陣を敷く。


しかし、高まる監視リスクや環境負荷、さらに米中技術摩擦の激化など難題は山積みだ。ビジネスエグゼクティブにとっては、米国と中東のAIパワーバランスがどのように形成されるかが、今後のグローバル経済動向を左右する重要なカギとなる。スターゲートUAEの行方は、21世紀の「テクノ・ナショナリズム」新時代を読み解くうえで見逃せないトピックと言えるだろう。 筆者注記

本稿は、Wall Street Journal(2025年5月22日付)の記事 "OpenAI Commits to Giant U.A.E. Data Center in Global Expansion" を基礎資料とし、独自の取材と分析を加えて作成した。プロジェクトの詳細は今後変更される可能性があり、投資判断等は最新情報を確認の上で行われたい。

 
 
 

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