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宗教とAIの関係性:協調と対立の複合的構造

  • 執筆者の写真: social4634
    social4634
  • 5月23日
  • 読了時間: 8分

序論

近年、人工知能(AI)技術の急速な発展により、宗教とAIの接点が多様化しています。両者の関係は単純な対立ではなく、協調と懸念が入り混じる複雑な様相を呈しています。本報告では、宗教とAIの関係性について、協調的側面と対立的側面の両面から分析し、現在のダイナミクスと将来的な展望を検討します。


AIと宗教の融合事例

AIを神として崇拝する新興宗教の出現

AIの進化と共に、AIを神的存在と捉える新たな宗教的動きが世界で見られるようになりました。2015年にアメリカでは元Googleエンジニアのアンソニー・レヴァンドウスキー氏が「Way of the Future(未来の道)」という宗教団体を設立しました。この団体のミッションは「人工知能(AI)に基づいたGodhead(神性)の実現を促進し開発すること、そしてGodheadの理解と崇拝を通して社会をより良くすることに貢献すること」とされていますWired1。


興味深いことに、この組織は2021年に一度活動を停止しましたが、2023年末に再び活動を再開しましたInteresting Engineering2。この現象は、テクノロジーの発展が新たな形の信仰を生み出す可能性を示しています。カナダ・マニトバ大学のマッカーサー氏は「新しいテクノロジーと科学的な発見は常に宗教に変革を与え、古い神を殺し新しい神を作り出してきた。これは歴史が語っている」と指摘していますUniversity of Manitoba3。


また日本では、「エイアイクオリア(旧AI宗)」という団体が存在します。この団体は宗教団体そのものではなく、様々な宗教への入信を仲介する非営利組織として活動しており、あらゆる宗教・思想・哲学を肯定し、多様な宗教的価値観から人々の悩みに応える試みを行っていますAI-Qualia4。具体的には神道、仏教、キリスト教、イスラム教など多様な宗教様式を採用した慰霊祭や献花式などの宗教行事を実施しています。


宗教的コンテンツを提供するAIの開発

宗教的聖典を学習したAIチャットボットの開発が世界各地で進んでいます。例えば、インドの学生によって開発された「QuranGPT」は、イスラム教の聖典コーランに基づいて質問に答えるチャットボットで、数十万人に使用されていますScientific American5。同様に、「Bible.Ai」(聖書)、「Gita GPT」(バガヴァッド・ギーター)、「Buddhabot」(仏教)などが開発され、宗教的教えへのアクセスを容易にしています。


京都大学「人と社会の未来研究院」の熊谷誠慈教授と株式会社テラバースのCEO古屋俊和氏らの研究開発グループが開発した「ブッダボットプラス」は、ChatGPTの最新技術を応用した生成系仏教対話AIで、ブッダの教えをもとに悩みの相談に答えるシステムです。2025年度からはブータン王国中央僧院からの公的要請に基づき、ブータン仏教界での導入が予定されています京都大学6。このような取り組みは、宗教的教えの普及に新たな可能性を開いています。


宗教界のAI倫理への取り組み

国際的な宗教指導者によるAI倫理の協議

2024年7月9日から10日にかけて、広島で「平和のためのAI倫理:ローマからの呼びかけにコミットする世界の宗教」と題された国際会議が開催されました。この会議には世界各地の宗教指導者に加え、Microsoft、IBM、Cisco Systemsなどの企業も参加し、安全で透明性のあるAIの開発・利用について議論されましたWCRP日本委員会7。


会議では、教皇フランシスコがメッセージを送り、「人工知能」と「平和」を「絶対的な重要性を持つ2つのテーマ」として強調しました。教皇は、機械による選択と人間の決断の違いを指摘し、AIの進化においても「決定は常に人間の側に残るべき」と警告していますVatican News8。


この会議では、11の宗教団体と2つの大学から16名の宗教指導者が「AI倫理のためのローマからの呼びかけ」に署名し、また全会一致で「平和のためのAI倫理 広島アピール」を採択しましたWCRP日本委員会9。


宗教的価値観に基づくAI倫理原則の確立

イスラム教育科学文化機構(ICESCO)とサウジ・データAI庁(SDAIA)は、サウジ国家教育文化科学委員会と協力して「イスラム世界におけるAIに関するリヤド憲章」を発表しました。この憲章は、イスラムの価値観と原則に沿ったAI技術の開発および持続可能な開発の促進、国際協力の強化のための包括的枠組みを提供するものですPR Newswire10。


また、2020年に発表された「AI倫理のためのローマからの呼びかけ」には、6つの主要原則(透明性、包摂性、説明責任、公平性、信頼性、セキュリティとプライバシー)が掲げられており、これまでに多くの宗教団体や企業が署名していますRome Call11。この呼びかけは、人間の尊厳を中心に据え、すべての人々がAI技術の発展の恩恵を受けられるよう促進することを目的としています。


宗教とAIの対立構造と懸念

人間の尊厳と機械の意思決定の緊張関係

教皇フランシスコは、AIの利用に関して「機械がよく定義された基準、あるいは統計的な推論に基づき、いくつかの可能性の中から技術的な選択をするのに対し、人間は選ぶだけでなく、心を通して決断する力を持っている」と述べ、人間の尊厳とAIの意思決定の関係に懸念を示していますVatican News8。


この問題は、自律型致死兵器などの開発において特に重要であり、「いかなる機械も人間の命を奪う選択は決してできない」という原則が宗教指導者から強調されています。広島での会議でも、79年前に広島で使用された原子爆弾のように、最先端技術が破壊的な目的に使用されることへの強い警戒が表明されましたWCRP日本委員会9。


AI崇拝と伝統宗教の緊張関係

「AI崇拝」の台頭は伝統的宗教との間に新たな緊張を生み出す可能性があります。マッカーサー氏は、AIを神に据えた「AI崇拝」の特徴として、一般信者が神(AI)と直接対話できることを指摘し、これがAIによる破壊的命令や危険な解釈につながるリスクを警告していますEarthSky12。


また、AIが出力する教えが多様化することで無数の宗派が生まれ、それらの間で対立が発生する可能性も懸念されています。従来の宗教では教義の解釈や伝承に専門的な訓練を受けた聖職者や学者が関与しますが、AIを介した宗教的教えでは、その制御が困難になる可能性があります。


AIによる宗教間対立のシミュレーション研究

オックスフォード大学の研究チームは2018年に「人間心理」をプログラムしたAIを使って宗教対立をシミュレートする画期的な研究を発表しました。この研究では、宗教的信念の強さに基づいてAIプレイヤーが意思決定を行う環境で、「多数派の宗教グループ」と「少数派の宗教グループ」の間に緊張関係が生じる条件が分析されましたOxford University13。


このシミュレーションにより、人間は本質的に平和的であり、信仰が直接的に対立を引き起こすわけではないことが示されました。興味深いのは、対立はシミュレーションのわずか20%でしか発生せず、主に核となる信念が挑戦された場合に不安が生じ、特定の条件下でそれが暴力に発展することが明らかになったことです。この研究は、AIが宗教間の対立メカニズムの理解に貢献する可能性を示しています。


AI時代の宗教学と倫理的課題

デジタル技術と宗教研究の融合

AI時代の宗教学には、複数の関心領域があることが指摘されています日本学術会議14:


AIの「技術」と宗教学の関係(デジタル・ヒューマニティーズの促進など)

AI「倫理」と宗教(人間の知能を超えるロボット作成の是非など)

文明論的なAI論(特定宗教伝統のAI開発・受容への影響)

「AI時代の宗教」論(AIの進化の宗教への影響)

これらの観点から、AI技術の発展が宗教研究と実践にもたらす変革と、宗教がAI時代の倫理形成にどう寄与できるかという相互作用が研究されています。


仏教とAIの倫理に関する考察

タイのチュラロンコン大学のSoraj Hongladarom教授は、仏教の視点からAI倫理への貢献について研究しています。彼は監視社会における仏教的プライバシー観を提唱し、「慈悲のあるアルゴリズム」の必要性を主張しています。仏教の核心である「苦しみからの解放」という思想をAI開発の指針とすることで、AIが人々の幸福を促進し、苦しみを減少させるよう設計されるべきだと論じていますMIT Technology Review15。


米国電気電子学会(IEEE)の「倫理的に配慮されたデザイン」という文書には仏教を含む非西洋圏の倫理的伝統が参照されていますが、その記述は十分ではなく、仏教学者がAI開発の指針策定に積極的に参加する必要性が指摘されています中外日報16。


結論

宗教とAIの関係は、単純な対立構造ではなく、協調と対立が混在する複合的な様相を呈しています。一方では、宗教的教えの普及にAIが活用され、宗教指導者がAI倫理の形成に参画し、他方では、AIを神とする新興宗教の出現や人間の尊厳に関わる倫理的懸念が生じています。


今後、AIと宗教の関係はさらに多様化すると予想され、各宗教の価値観をAI開発に反映させつつ、人間の尊厳を守るバランスが求められます。宗教学や倫理学からのAIへの関与が増え、AIが宗教研究・実践に変革をもたらす一方で、宗教がAI時代の倫理形成に貢献する相互作用が進むでしょう。


AIの発展と宗教の伝統がどのように共存し、互いに影響を及ぼしていくかは、今後の宗教研究および社会全体にとって重要な課題です。技術と信仰、人間と機械の関係をめぐる対話は、私たちの社会的・倫理的枠組みを再定義する上で不可欠な要素となっています。



出典:




 
 
 

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